従業員から給与の前借り要求は応じるべき?法的基準と難しいときの対処法を紹介
【記事更新 】
2024/09/24
昨今の経済情勢を鑑みると、従業員から給与の前借りを求められる機会が増えているのではないでしょうか。
経営者の皆様にとって、この問題は頭を悩ませる案件の一つかもしれません。従業員の窮状を見過ごすわけにはいきませんが、会社の資金繰りも気になるところです。
そこで本記事では、給与の前借りについて、法的な観点や実務的な対応方法をご紹介します。経営者の皆様が適切な判断を下せるよう、参考にしていただければ幸いです。
給与の前借り要求に応じるべき?
給与の前借りについて、まずは基本的な概念から押さえていきましょう。
給与の前借りとは
給与の前借りというのは広義に(あるいは社会通念上、一般的に)、従業員が給与日前に給与の一部または全部を受け取ることを指します。
20~30年ほど前まではよく見られた光景で、筆者も若い頃はしばしば、こうしたお願いを上司にしたものです。
現在でも多くの場合、緊急時や金銭的な問題に直面した従業員を支援する手段として利用されます。
ただ現代において注意が必要なのは、給与の前借りをするということは、労使間の信頼関係や従業員の福利厚生に大きな影響を与える可能性がある、ということです。
前借りに応じるメリット
前借りに応じることで、従業員の緊急時に経済的な支援を会社が行える結果となり、これがもとで従業員満足度向上につながる可能性があります。
また、会社への忠誠心や帰属意識が高まることも期待できるでしょう。結果として、従業員の生産性向上や離職率低下に寄与することも十分に期待値があるといってよいでしょうから、最終的には会社にとって「大きな効果のある投資」といえるかもしれません。
もっとも、それより何より「若い子を助けてやりたい」という経営者のポリシーを貫き通せるといった面が大きいことは、言うまでもないでしょう。社長としてのメンツが立つ、というものです。
前借りに応じるデメリット
一方で、デメリットも存在します。会社の資金繰りに影響を与える可能性があることは言うまでもありません。また、前例ができることで、他の従業員からの要求が増える可能性もあります。
さらに、従業員の金銭管理能力低下につながる恐れもあるのです。
ここまでの内容を踏まえると、給与の前借りは慎重に検討すべき問題であることがお分かりいただけたかと思います。次の章では、具体的にどのような状況で前借りを認めるべきか、見ていきましょう。
【法令その他】給与の前借りを認めるべき状況
労働基準法第25条では、非常時の賃金支払いについて規定されています。よってこの規定等々に照らせば、前借りを認めるべき状況は、主に以下の3つに分類できます。
労働基準法第25条(非常時払)について
【Q6-1】労働基準法第25条の「災害」には、今回の地震による災害も含まれるでしょうか。[A6-1]労働基準法第25条では、労働者が、出産、疾病、災害等の非常の場合の費用に充てるために請求する場合は、賃金支払期日前であっても、使用者は、既に行われた労働に対する賃金を支払わなければならないと定められています。
ここでいう「疾病」、「災害」には、業務上の疾病や負傷のみならず、業務外のいわゆる私傷病に加えて、洪水等の自然災害の場合も含まれると解されています。
このため、労働基準法第25条の「災害」には今回の地震による災害も含まれると考えられます。【Q6-2】労働者又はその家族が被災し、又は居住地区が避難地域に指定される等により、住居の変更を余儀なくされる場合の費用は、労働基準法第25条の「非常の場合の費用」に該当するでしょうか。
[A6-2]御質問にあるような費用は、災害によるものとして、労働基準法第25条の「非常の場合の費用」に該当すると考えられます。
厚生労働省ホームページより引用
緊急医療費の支払い
従業員や家族の突然の病気や怪我による高額な医療費が発生した場合、前借りを検討する価値があるでしょう。というより、その様に規定されていますので、対応する必要があります。
特に、生命に関わる緊急手術や治療が必要な場合や、健康保険でカバーされない医療費の支払いが必要な場合は、従業員にとって切実な問題ですから積極的に話を聞く必要があるでしょう。
災害や事故による緊急出費
自然災害による家屋の損壊や修繕費用、交通事故などの予期せぬ事故による緊急出費も、前借りを認める理由として妥当ですから、従業員にはその権利があります。
また、火災や盗難などによる家財の損失と補填が必要な場合も同様です。
冠婚葬祭の費用
近親者の葬儀費用の支払いや、結婚式、出産に関連する緊急の出費も、従業員にとってはやはり、前借りを検討すべき状況です。また、親族の介護や看病のための一時的な費用も含まれるでしょう。
こうした状況下では従業員の窮状を理解し、可能な限り支援を検討することが本来は望ましいと言えます。
給与前借りに関する法的基準
給与の前借りには、法的な側面からも慎重な対応が求められます。
労働基準法における規定
先述のとおり出産、疾病、災害等の非常の場合、労働者の請求に応じて支払う義務があるとされています。ただし、注意が必要なのは、既往の労働に対する賃金に限定されるということです。
前借りと前払いの違い
ここで重要なのが、前借りと前払いの違いです。
便宜上ここまで「前借り」も「前払い」も同じく「前借り」として解説してきましたが、本来的に「前借り」は将来の労働に対する賃金を先に受け取ることを指します。
一方、前払いは「既に働いた分の賃金を給与日前に受け取ること」を意味します。
なお労働基準法で認められているのは前払いであり、前借りは法的に問題がある可能性があります。
給与前借りに関する注意点
給与前借りを行う際は、以下の点に注意が必要です。
前借金と賃金の相殺は労働基準法第17条で禁止されている
前借りを行う場合は、別途貸付契約を結ぶ必要がある
従業員の同意なしに給与から前借金を差し引くことは違法
法的な観点から見ると、給与の前借りには慎重な対応が求められることがお分かりいただけたかと思います。
次の章では、経営者の皆様からよくある質問に対する回答をまとめました。
【経営者向け】従業員からの給料前借り要求に関するよくある質問
経営者の皆様から寄せられる質問について、Q&A形式でお答えします。
給与の前借りに応じる法的義務はあるのでしょうか?正直、手元資金が・・・
労働基準法第25条で定められた非常時(出産、疾病、災害等)の場合のみ、既に働いた分の賃金について前払いの義務があります。それ以外の理由や、まだ働いていない分の給与については、法的な支払い義務はありません。
給与前借りを認めた場合、どのようなリスクがありますか?
主なリスクとしては以下が挙げられます。
前例ができることで、他の従業員からの要求が増える可能性がある
会社の資金繰りに影響を与える可能性がある
従業員の金銭管理能力低下につながる恐れがある
義理と人情で何とか従業員からの給料前借り(前払い)に応じてやりたいですが、先立つものがありません。どうしたらよいですか。
実は、ファクタリングという方法があります。取引先からの入金待ち債権をそれこそ「前払い」的に現金化することができます。
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当社のようなファクタリング会社であれば、最短即日のファクタリング(現金化)にも対応可能で、2社間取引なら取引先にもバレずに利用できます。
ファクタリングのメリット | 詳細 |
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バランスシートに影響なし | 借入ではなく債権売却のため |
取引先に知られない | 2社間取引の場合は水面下で実行可能 |
柔軟な対応 | 借入でないことが重要 |
資金面での課題がある場合は、ファクタリングの利用も一つの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。当社ではお話を伺うところから、ファクタリングを通じた総合的なサポートを提供しています。人情味のある対応で、皆様の経営をサポートいたします。
今後、給与前借りに関する社内規定の整備や、従業員の金銭教育なども検討されると良いでしょう。経営者の皆様には、従業員との信頼関係を大切にしながら、会社の健全性も維持するバランスの取れた対応を心がけていただきたいと思います。