債権譲渡とは?具体例とファクタリングとの違いも解説
【記事更新 】
2025/01/28
中小企業における資金調達手段として、注目を集める債権譲渡。弁済が困難になった債務を解消できる手法として広く活用されていますが、民法上の制度として認められた仕組みだけに、実務で活用するには正確な理解と適切な判断が求められます。
本記事では、債権譲渡をめぐる基本的な仕組みから具体的な活用事例、ファクタリングとの違いまで、実務に即した観点から詳しく解説していきます。資金繰りに窮する中小企業の経営者にとって意義深い情報となるはずです。
債権譲渡の基本的な仕組み
民法で定められた債権譲渡制度は、事業者にとって重要な資金調達手段です。金融機関からの融資や手形割引と並び、売掛債権などを活用した資金調達の選択肢として定着しています。実務における正しい理解なしには活用できない制度だけに、まずは基本から丁寧に見ていきましょう。
債権譲渡の定義
売掛金や未収金といった債権を、第三者へ譲り渡す法律行為が債権譲渡です。現在の債権者から新しい債権者へ債権の所有権が移転しますが、債権自体の内容や金額に変更はありません。民法第466条に基づく正当な制度として位置づけられており、債権の流動化による資金調達手段として広く活用されています。実務上重要となるのが対抗要件(第三者に対して権利を主張できる要件)の具備で、債務者への通知や承諾が必要です。
債権譲渡の関係者
債権譲渡における関係者は3者から構成されているのが特徴です。債権を譲り渡す側となる元の債権者は譲渡人と呼ばれ、新たに債権を取得する第三者が譲受人です。支払い義務を負う債務者は、譲渡後も引き続き同じ支払い義務を負いますが、支払い先が譲受人へと変更となります。債務者保護の観点で、債権譲渡により債務者の地位が不利にならないよう配慮されています。
債権譲渡の目的
事業における資金繰りの改善が主な目的です。譲渡人側は、期日が迫っているにも関わらず弁済が困難な債務を抱えている場合に、その債権を譲渡することで債務を解消する目的で行います。一方、譲受人側は未回収となっている売掛債権を早期に現金化することで、運転資金の確保や事業拡大のための投資資金を調達できます。債権回収業務の効率化や不良債権のリスク軽減といった側面からも、経営戦略上の有効な選択肢となるでしょう。
債権譲渡の具体的な事例
ここでは、事業における債権譲渡の実際の活用場面を見ていきましょう。中小企業の資金繰り対策から不良債権処理まで、幅広い場面で活用されています。
売掛債権の早期現金化
建設業A社が取引先B社に対して持つ100万円の売掛債権を、金融機関C社へ90万円で譲渡するケースがよく見られます。譲渡により即座に現金化が実現し、資金繰りが改善。譲渡後はC社がB社に対する請求権を持つことになり、A社は回収業務から解放されます。建設業界では工事完了から入金までの期間が長期化しがちなため、売掛債権の早期現金化ニーズが特に高いでしょう。
不良債権の売却
回収が困難となった500万円の貸付債権を200万円で債権回収会社へ譲渡する事例もみられます。専門的なノウハウを持つ債権回収会社への譲渡により、一定額を回収しつつ回収業務の負担から解放されます。債権価値は大幅に目減りしますが、確実な回収と業務効率化を図ることが可能です。経営資源を本業に集中できる点でメリットがあり、不良債権の長期保有によるリスクも軽減できます。
債権の担保活用
金融機関からの借入時に、売掛債権を担保として譲渡するケースもあります。将来発生する債権も含めた譲渡担保契約により、継続的な与信枠の確保が可能です。中小企業における重要な資金調達手段といえるでしょう。不動産担保に依存しない新しい金融手法として注目を集めており、特に成長企業における活用が目立ちます。
債権譲渡とファクタリングの違い
一見すると似ているようで明確な違いがある債権譲渡とファクタリング。両者を使い分けることで効果的な資金調達が可能になります。実務上の違いを正確に理解することが重要です。
取引の性質における違い
債権譲渡は民法に基づく債権移転の法的手続きです。所有権が完全に第三者へ移転するため、譲渡後の債権回収リスクも譲受人が負担します。一般的な金融取引よりも強い法的効力を持っているのが特徴です。
対してファクタリングは金融サービスの一種です。売掛債権買取による資金調達が主目的で、債権そのものの所有権移転は二次的な要素となります。多くの場合、債権が回収できないリスクは譲渡企業側が負う契約となっています。純粋な債権売買よりもむしろ、債権担保融資に近い性質を持つ取引といえるでしょう。
契約形態の違い
債権譲渡では債務者への通知や承諾取付が必須となります。登記申請には法務局への書類提出や専門家への依頼も必要です。さらに、第三者対抗要件を具備するため、確定日付のある証書による通知や債務者の承諾を得なければなりません。
一方、ファクタリングの場合は、基本的に譲渡企業とファクタリング会社の2社間契約で完結します。債務者への通知は不要で、社印の押印程度で即日での契約締結が可能です。債権譲渡登記も省略できるため、取引先企業に資金調達の事実を知られることなく進められます。
コストと手続きの違い
債権譲渡自体の手数料は原則無料ですが、債権譲渡登記には1件あたり7,500円の登録免許税が発生します。弁護士などの専門家に依頼する場合は別途報酬も必要です。また、手続き完了までに1週間程度かかるのが一般的です。
対するファクタリングは、債権額の1~10%程度の手数料が必要となりますが、審査から入金まで最短即日での対応が可能です。登記費用は不要で、事務手続きも簡素化されています。資金需要が急な場合や取引先との関係性を重視する場合に適しているといえるでしょう。
債権譲渡における重要な注意点
実務で債権譲渡を活用する際には、いくつかの注意点を抑えておくことが必要です。慎重な対応を怠ると思わぬトラブルを招きかねません。事前に十分に検討したうえで、必要に応じて専門家に相談しましょう。
二重譲渡の防止
同一債権を複数の相手に譲渡してしまう二重譲渡は、深刻な問題となります。債権譲渡では法務局での債権譲渡登記により対抗要件を具備することで、所有権の所在を明確にする必要があります。登記情報の確認は取引の安全性を確保する上で重要です。二重譲渡は民事上の責任だけでなく、刑事責任を問われる可能性もあり、細心の注意を払う必要があります。
既存の弁済状況の確認
譲渡対象となる債権について、支払いが完了していないか、時効となっていないかといった確認が欠かせません。債務者の支払能力についても事前調査が重要で、回収可能性を見極める必要があります。債権の実在性や有効性の確認も重要なポイントです。
債権譲渡登記の影響
債権譲渡登記は一般に公開される情報となります。取引先が内容を確認できるため、企業の資金繰り状況が周囲に知られてしまう可能性があります。そのため、風評リスクも考慮に入れた判断が求められるでしょう。業界内での評判や信用力への影響も慎重に検討する必要があります。